2019.5.09とある葬儀で実感した、後輩スタッフの心と想い
目次
スタッフ自身も決して他人事ではない、身近な人とのお別れ
私たちはお見送りのプロとして、いつなんどきも葬儀というお別れの儀式に対して深遠なる気持ちをもって、全うしています。私たちの使命として、つねに全力で手を抜くことなく、故人様、ご遺族様の想いに寄り添い向き合っています。
葬儀の執り行いをする私たちは、人間です。
自分が遺族に、そして故人になる日が必ずいつかはやって来ることを、毎日身をもって実感しているのも事実です。
だからこそ、いつでも心を寄り添えるような仕事をさせていただくことをスタッフ一人ひとりの胸に刻んで職務を全うしております。
今回、このお話をこの場でお伝えしようかどうか迷ったのですが、それでも書かずにいられなかった想いが生まれたので、ここに筆を取らせていただきました。
実は、ちょっと前に先輩スタッフが亡くなりました。
人は、いつか旅立つものだと日々、葬儀という仕事に携わるなかで理解しているつもりでしたが、やはり身近な仲間がなくなってしまったことに対して気持ちをしっかりともつことはなかなか難しいことでした。
どちらも大切なお葬式。できればどちらもきちんとお見送りしたい…。
私は、亡くなった先輩スタッフにとてもお世話になっていたこともあり、最期まできちんとお見送りをしたい気持ちはあったのですが、ちょうど時期を同じくして、別の葬儀の担当を持つことになっていたのです。
担当させていただいたご遺族様とは、長いお付き合いをさせていただいており、私にとっても思い入れのある方でした。
先輩スタッフの葬儀を最初から最期まで執り行いたいという気持ち、そしてお世話になっているご遺族さまの葬儀もしっかり受け持ちたいという気持ち…。
2つの葬儀の両方とも責任をもって執り行いたいという気持ちの葛藤によって、私の心は大いに揺らいでおりました。
そして出した答えは「自分の職務を全うすること。それがプロとしての役割であること」。私は、そう自分の胸に言い聞かせ、ご遺族さまの葬儀をしっかり勤めあげることを考えることにしました。
先輩スタッフとの想い出がつまった場所、それはまさにこの職場でした
当日がやってきました。
この日、最初に先輩スタッフの葬儀が行われ、そのあとに私が担当する葬儀が始まるという流れでしたので、私は先輩スタッフとお別れをしたら、途中で退席をさせていただくことになっていました。
人はいつかいなくなります。そんなことは生きていれば百も承知です。
ただ自分の大切な人が急にいなくなることは、想像と現実では何倍もその悲しみは違うのだと、自分が当事者になって初めて実感するわけです。
「いなくなる」という言葉には2種類あって、そこから去るけどどこかで生きているということ。そしてもう一つは、この世からいなくなること。
生きていれば自分や相手が「会いたい」と願えば、再会できる手段はあります。
しかし後者は自分が会いたいと思っていても、永遠に会うことができない。その人がこの世からいなくなった瞬間に、その人は過去となってしまうからです。
故人となってしまった先輩スタッフとのお別れをする儀式が行われる場所は、悲しいかな、一緒に働いていた職場です。想い出がたくさんつまったところでお別れをするのは想像以上に悲しく、あちらこちらにその方の想いが詰まっている場所でもあるので、目をつぶっていても、この空間に身を置きこの雰囲気のなかにいると、先輩スタッフの生前の残像が脳裏に浮かび、それは消えることはありませんでした。
扉を開けて寄り添ってくれた、後輩スタッフたちの優しさ
葬儀も終盤に差しかかってきたころのことでした。
私は、担当する次の葬儀が控えていたため、気持ちを落ち着かせてからその場をあとにしようとした、そのときでした。
私の後輩スタッフが扉を開けに来てくれたのです。そして何も言わず、私の気持ちを察するかのようにニコッと優しい笑みをたたえてくれたのです。
そして「あとは任せてください」と目で語ってくれました。
先輩スタッフのお見送りを最後までできなかったということ、そして私のなかで浮上しては消える、複雑な想いや悲しみのすべてを、その後輩スタッフが察してくれたこと。
その場で起きたあらゆることに、これまで張り詰めていた心が揺るぎ、そこから泉のように涙があふれ出てきたのを覚えています。
人を思いやれる職場づくりをしたいと、再確認できた特別な葬儀
私が今回、お伝えしたかったことは【人を想う気持ち】です。
後日談ですが、後輩スタッフたちは、あの日に重なった2つの大切な葬儀のことについて話し合ったといいます。
私が先輩スタッフとともに過ごした時間は長かったけれど、後輩たちはまだ日が浅かった。私にとって先輩スタッフの葬儀は、私情が入りとても辛く、もう一つの葬儀ではきちんと仕事ができる心境ではないかもしれない。だから彼らは私のフォローも含めて、プロとしてご葬儀をしっかり執り行おうと誓い合ったと言います。
その話を他から聞いたとき、とても感動しました。
仲間を想う気持ちが後輩スタッフたちに育っていたことを実感し、心から素晴らしいと感じました。
これからも故人である先輩スタッフの教えが、きちんと後輩スタッフに伝授されていくこと。それはスキルのみならず、【想い】が含まれていること。
先輩スタッフとしっかりお別れができたことはもちろん、これからも「誰かを想いやれる職場や環境作り」を整えていこう再確認できた、私にとって特別な葬儀となりました。
お葬式は一見、どれも同じように見えてしまうかもしれません。
しかし、100人いれば100通りの「想い」があり、決してどれ一つ同じお葬式はないのです。
私たち大の葬祭スタッフは、ご家族の大切な「想い」をしっかり感じとり、つなぐことを使命としています。
「想いを大切にする。エピソード」では、お葬式のワンシーンから生まれた、大切な想い出のストーリーをご紹介させていただきます。