2018.1.05「想い出の場所へ寄りたい」大切にされた庭に最後のお別れ
お葬式は一見、どれも同じように見えてしまうかもしれません。
しかし、100人いれば100通りの「想い」があり、決してどれ一つ同じお葬式はないのです。
私たち大の葬祭スタッフは、ご家族の大切な「想い」をしっかり感じとり、つなぐことを使命としています。
「想いを大切にする。エピソード」では、お葬式のワンシーンから生まれた、大切な想い出のストーリーをご紹介させていただきます。
ご遺族の想いに寄り添うご提案を
最近では病院からご自宅や会館に入られる時また、会館から出棺される時、「最後にゆかりのある場所に寄ってあげたい」というご遺族が多くいらっしゃいます。
特に病院から直接会館に入られることになる場合、ご自宅や施設など想い出があるところに寄ってほしいというご遺族の気持ちは強いのだと認識しております。
先日、お迎えに伺った先でのお話です。
学校の先生をされていたという故人様。歴史のある町で、先祖代々住み続けているという古民家に住んでいらっしゃいました。
いつも縁側から望める庭が自慢で、サルスベリが庭の左手から枝木を大きく伸ばし、夏には濃いピンク色の花を見事に咲かせていたそうです。
故人様は奥様と3人の娘さんの5人暮らしでしたが3人の娘さんは進学、就職、そして結婚をされ、それぞれその家から巣立っていきました。
定年退職後の故人様は、よく縁側に座り将棋を指していたといいます。ご近所の茶飲み友達も遊びにきてはこの場所に座り、のんびり過ごされていたようです。
8年前に奥様に先立たれ、それからしばらくはお一人でご自宅に住んでいらっしゃいました。
いよいよ足腰が弱くなり、娘さんたちと話し合った結果、介護付きマンションに入居することに決められたそうです。
介護付きマンションに入居後も、風通しのため1ヶ月に1度ご自宅へ帰り、自慢のお庭は娘さんの旦那さんに剪定や草むしりを頼むほど大切にされていたそうです。
そんなお父さまの訃報が届いたのは、猛暑と呼ばれたある夏。最高気温を記録した8月でした。
ご遺族である娘さんたちとこの時、初めてお会いしました。
3人の娘さんは御遺影をどうされるか話し合いをされていました。
「縁側で撮ったあのときの写真ってどこだったっけ?」
「あの写真ね。サルスベリの花が咲いたときに記念に撮ったやつ…」
しばらく想い出話に花を咲かせていました。
実は後からご親戚の方から伺ったのですが、どうやらこちらの三姉妹、その地区では名物三姉妹だったそうで、ご自宅からはいつも明るく元気で笑い声が隣り近所にあふれるほど、笑顔の絶えないご一家だったといいます。
「思い出の自宅を見せたい」守り続けてきた自宅へ行くこと
初めは会館に直接行くという事でお話がまとまっておりましたが、お迎え先で故人様を霊柩車に乗せた後、いつも会話が絶えない三姉妹が少しだけ沈黙したのです。
私は口をつぐんでいる理由に心当たりがあり、ご質問をしてみました。
「ご実家へ行かれますか?」
私の想像に違いのない言葉が帰ってきました。
「やっぱり自宅に連れて帰ってあげたい」
そのお気持ちを受けて、私はルートを変更し、ご実家へと向かいました。
家に到着し、締め切っていた雨戸を開けました。
開けた瞬間に目に飛び込んで来たのは満開の花を咲かせたサルスベリ。その圧倒的な光景は、今でも私の目に焼き付いています。息を飲むほど圧巻な咲き誇りようでした。
それはもう、主人を待っていたとしか言いようがないものでした。
三姉妹は「来てよかったね〜、お父さん」そう笑いあって、また名物三姉妹と言われるがごとく想い出話に花を咲かせていました。
事前にどのようにされるのかを決めていても実際にその場面にならないと、ご自分の気持ちになかなか気づかないものもあります。
ご遺族の本当の気持ちを少しでも聞き取れるように、ちょっとした心の変化に寄り添い言葉がけをしていきたい。その気持ちを改めて実感することができました。
故人様との最期のお別れは人だけではない。場所も大切な想い出のひとつなのです。
その後、1年間は空き家として三姉妹がどうにかお家を管理していましたが、いよいよ維持管理が難しくなり、更地にする計画もなされたそう。
しかししばらくしてご縁があり、今は新しい家族が住まわれているそうです。
今でも暑い夏、耳をつんざくほどの蝉時雨に包まれると、あの庭のサルスベリを想い出します。