2017.12.20生前からのご相談で「利く」ことを大切にしたお葬式
お葬式は一見、どれも同じように見えてしまうかもしれません。
しかし、100人いれば100通りの「想い」があり、決してどれ一つ同じお葬式はないのです。
私たち大の葬祭スタッフは、ご家族の大切な「想い」をしっかり感じとり、つなぐことを使命としています。
「想いを大切にする。エピソード」では、お葬式のワンシーンから生まれた、大切な想い出のストーリーをご紹介させていただきます。
先に逝く人、残される人の想い。
いつもより春霞が濃く山桜がにじみ絵のように幻想的に彩られた、春を感じさせる1日でした。この日、大の葬祭ではとある男性のご葬儀がしめやかにとり行われました。
話は1年前にさかのぼります。
遠く目をやると、満開の山桜が淡いピンク色にふわりと浮かび上がった春うららかな日、60代のご夫婦がいらっしゃいました。
家族葬を希望され、部屋を見せて欲しいとのご相談をお受けしたのです。
私はてっきり、対象である方はお二人のご両親のどちらかの方と勝手に思い込んでおり、ご案内をしておりましたが、会話を伺っていますとどうも様子が違うようで…。
注意深くお話を進めておりますと、ご葬儀の対象になる方は本日お見えになっているご主人であることが判明。
この日は「自らのお式を生きているうちに、自分の目で確かめたい」というお気持ちで奥様といらっしゃってくださったのです。
お話に耳を傾けご質問をさせていただくなかで、ご主人から語られる
“亡くなっていく人が、残していく人へ対する想い”
そして、奥様のなかにある
”亡くなっていく人を支えている、残される人の想い”
お互いのお気持ちをお聞きして、こちらも誠心誠意ご要望にお答えしなければと身が引き締まる思いにかられたのでした。
そうして、ある程度プランもお棺も決まったところで奥様がひと言、
「これで安心したやろ?大の葬祭にお願いしておけば間違いないんやけんな」
「そうやな。来ちよかったわ。これで心おきなく花見ができるわ」
そう言って目を細めておりました。
私はその言葉をお聞きし、何とも感慨深い気持ちになったことを今でも思い出します。
1年前の想いがつまった、1年後のお葬式
ご夫妻がいらっしゃってちょうど1年後、電話が鳴りました。電話の主は奥様でした。1年前のお二人とのお約束を果たす時が来たのです。
そして同時に、私のなかでは1年が早いのか遅いのか…、なんとも言えない気持ちと、あの時のご主人のそっと微笑む表情が目に浮かんできました。
ここからは私の想像でしかないことではありますが、ご夫婦はきっとご葬儀というこの日が、次に来たる春であることを予期していたのかもしれません。
そんなことはもはや聞く必要もないぐらい、私はお二人のことやお二人の想いを事前に伺っていたので、戸惑うことなく粛々とご葬儀にとりかかれました。
ご葬儀は無事に終わり、最後に奥様にお声掛けさせていただきましたところ、
「本人の思い通りにできたから良かったと思います。ありがとうございました」
と、仰っていただきました。
ご遺族のご要望を聞く前に、まず「利く」を意識した対応を
事前相談では、訪れて下さった方の想いをお伺いする場面がございます。
「聴く」ことは日本語にすれば誰でもできる単純なことかもしれませんが、私たちのような仕事では「聴く」ことがただの作業になってしまうと、それは相手にとって大変失礼にあたる重いことなのであります。
「きく」という言葉は実に何通りもありまして、「聞く」と「聴く」は日常でもよく使用する言葉だと思います。
日本の言葉はきめ細やかであるとつくづく感じます。
ご遺族の想いに耳を傾けるのはもちろんですが、常に私が心のメモに書き留めているのは「効く」と「利く」という言葉。
「目端が利く」や「気が効く」といった言葉がありますが、意味は誰かの役に立つことや本来の機能が十分に発揮されるということ。
例えば「利き酒」の「利く」も「精神を研ぎ澄ませて識別する」ことで、お酒にも香りや味わいに違いがあるように、ご葬儀もひとつとして同じものはありません。
ご質問を投げかけるときもただ単に「聞く」ではなく「利く」姿勢で接することができるよう、ご遺族やご参列の方々と接していくことこそがこの仕事の使命であると考えております。